ミトシロ書房の業務日誌

■出版社に勤めたのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。『入りにくいけど素敵な店』という著書も出しました。レシピ本や街情報誌が得意なのですが、最近は書籍(単行本)を企画から校了まで、出版社の編集者さんとタッグを組んで制作請負などをしています。週刊誌はレシピなどのグラビアページをはじめ、文字みっちりの取材モノにも取り組んでいます。
■WEBメディアの仕事も歓迎します。場合によって写真撮影、取材コーディネート込みでお受けします。
■四柱推命、周易、断易できますので、占いのご用命もどうぞ。

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2014年6月5日木曜日

「あのころ早稲田、神田川エレジー」


カイシャイン時代の編集長の
訃報を聞いた。
編集部員にとっては直属の上司。

几帳面でダウニーのいい香りを漂わせ、
お酒が好きで、なぜだかモテて、
そういえば、2回結婚してだめになって、
それからもとぎれなく彼女がいたようだ。
肥満だしビジュアルは「?」だけど
「ああ、こういうのってモテるよねー」
って気配でわかる。ちなみに魅力はあるけど、
わたしのタイプではない。

四柱推命や易などの東洋の占いでは
男性にとって、女性は「財」。
(※妻財(さいざい)という言葉がある)
財の星を生まれ持った人は、
笑顔に引力がある。作り笑いでは
ないから、人を惹きつける。
“この人”はそういう感じ。
財にはもちろん文字通りの
「財産」の意味もあって、女性を
大事にする人は財運に恵まれる。

さて、“この人”と、
上司と部下の関係だったとき、
わたしはスランプだった。
「こんな記事を作りたい!」と
プレゼンをしても、
一生懸命取材して記事を書いても
「だめ」と差し戻し・書き直し。
印刷直前になってもコレなので、
わたしだけでなく、
同僚の編集部員も超困っていた。
「ここでがんばんなきゃ本出ない!」
って、体力の限界を華麗に超越し、
責任感だけでキーをたたいていたっけ。
編集部員で何夜も明かしたものか。
つらかった……。
「こんなのやってらんない」と、
(リアルに)脱走した編集部員も数名いた。

“この人”のラフは整然としており、
矛盾がない。なにより文字がきれいで
見ていてすがすがしい。
編集者として見習う点は多かった。
ただ、現場・最前線で取材して
モノを作るのが上手な編集者も、
業績が認められてえらくなると
編集長・デスク・編集局長などになる。
えらくなるのに反比例して
現場感がなくなってしまう。
“この人”は現場感をずっと持ってて、
自分の思い・やりたいことを
「紙」「雑誌」という媒体に落とし込むのが
とてもうまかった。
その代わり、部下を使ってそれを
実現するのは「?」だったかもわからんね。
また、そうしたクリエイティブ能力の
高い人は人をまとめる能力が
ないことが多いので、
下にいる編集部員はたいへんだ。

たいへんな日々、ほめられることもなく
月刊雑誌を作っていた。
そうそう、わたしは“この人”が立ち上げた
雑誌が好きで他社から転職してきたんだっけ。

ひとつだけほめられたことをすごく覚えている。
あまり人をほめない人だから。

取材が終わり、写真を整理し、
原稿を書いてレイアウトしてもらって、
「さあ、編集長、コレを読んでください、
もう、世に出してもいいでしょうか!」


「おもしろい」


最初で最後かな。
早朝5時ぐらいから築地に取材に行って、
お昼からこの取材に取り掛かったんだった。
ある挫折と青春の終わりの物語。
青春の墓標。

合掌。






(木村悦子)